テレビ
K小学校で最も親しい友人は三村さんである。小学校の近くの豪邸に住む。幼稚園も近いのに、きょうだいが多いからか行っていない。入学前に友達がいなかった者どうしで仲良くなったのかもしれない。K幼稚園のクラスメートが1年1組に10人くらいいるはずだけど、私は五郎ちゃん以外話をしたこともないし、顔も覚えて... 続きをみる
成り金
祖母に溺愛された洋子も、もちろん祖父より祖母派だが、祖父を見直した出来事があると言う。結婚直後の夫の給料が少ない時期に妊娠してしまったので、中絶しようと思うと祖父に告げると、祖父は洋子妻夫を自分の前に正座させて、こんこんと説教した。せっかく授かったものをおろすなんてとんでもないと言われ、2人は産... 続きをみる
女は三界に家なし
私が生まれる直前に曽祖母が死去すると、いち子が実家の主導権を握り、祖母はいち子の顔色を見ながら暮らすようになった。母は、「お母さん(私の祖母)は、『三界に家なし』そのままの人生で、ほんまにかわいそや」と同情する。実家の近所には、息男一家と同居しているもっと気の毒な女性がいた。母が私の息男を抱いて... 続きをみる
歩く辞書
幸子は祖母(彼女の母)に素っ気ない。妹の洋子ばかりかわいがると子供の頃から恨んでいた。幸子は長い間3人姉妹の末っ子だったのが、8歳のときに洋子が生まれ、家族の関心が一斉に美人の洋子に集まった。祖母が洋子を溺愛しているのは、私にも感じられた。幸子が懐いていた芦屋の叔母ちゃん(私の祖父の妹)も洋子の... 続きをみる
流産
幸子の夫の病気が回復するまでに10年以上かかったように思う。再就職した夫の収入は少なく、幸子は晩年まで働き続けた。夫は、朝日新聞の記者としてエリートコースを進む弟について、「僕は同志社の経済を出たんですけど、弟は同志社の英文科ですねん」と、母と私に話したことがある。当時の同志社大学は経済が一番難... 続きをみる
ポーラ
幸子は4人姉妹の中で一番苦労の多い人生だったと私は思う。上2人の見合い結婚と違って、幸子と洋子は恋愛結婚だ。幸子より1年上の夫はサラリーマンだったが、結婚後すぐに肺結核に冒されて会社をやめ、幸子が働いて2人の生活を支え続けることになった。「結婚前に健康診断書を要求するとか、親がちゃんとせえへんか... 続きをみる
シルバーカー
母は妹の幸子叔母を悪く言う。4年下なのに姉を立てず、上から目線で話すのが気に入らないらしい。彼女は確かに、母より自分の方が思慮深いと考えているようで、母にいろいろアドバイスする。母を思いやる親切心からだと私には分かるが、母は彼女のすることなすことが気に食わないらしい。母は人付き合いがよく、周りか... 続きをみる
修学旅行
私とマイコが京都から帰ると、父がお礼の手紙を書かせる。祖母父と四郎妻夫は子供からの手紙を面白く読んでくれたと思うが、父と母が挨拶なしなのは失礼じゃないだろうか? 従兄の修平が中学3年の修学旅行で上京したとき、母・私・マイコの3人で面会に行ったら、修平の父から達筆な字の礼状が来たのを覚えている。修... 続きをみる
鳥山明
自転車に乗った紙芝居屋さんが家の前に来たとき、近所の子供達と一緒に幼児向きの紙芝居を見た。兵庫県の我が家は田舎だから紙芝居屋さんなど来ない。代金代わりに駄菓子を買って、なめながら見る。紙芝居は面白かったが、駄菓子がまずくて、口の中がべたつき、気持ち悪かった。 京都は貸本屋もあり、漫画がたくさん... 続きをみる
友禅流し
四郎の家の近所に白川が流れている。川のほとりにしだれ柳が植わっていて、私はそれを見るたび、小野道風の逸話が頭に浮かぶ。川の中に入って遊んだ。ふくらはぎまでしか漬からない浅さだが、無色透明のきれいな水だ。夏なので脚を水に漬けると気持ちがよい。 水の色が鮮やかな赤や青になる日は入れない。友禅流しを... 続きをみる
ワキガ
四郎叔父の家には、女中(お手伝いさん)がいる。当時は課長以上は女中を雇うのが当たり前だった。私の家の近所に住む父の上司一家にももちろん女中がいたが、大事な物を持ち逃げされ、以後妻が独りで広い家を切り盛りすることになった。その話を聞いて少し前に見た『女中っ子』の映画がかぶさった。女中の給料は、私が... 続きをみる
銭湯3
男風呂に入ったことが2度ある。いち子の夫と四郎叔父に入れてもらった。いち子の夫は父と同様陰部も丁寧に洗ってくれたが、四郎叔父は陰部を残した。しっかり洗うべき所なのに。父に2人の違いを尋ねると、「四郎叔父ちゃんは子供がいいひんからや」と笑って答えた。いち子の夫は私と血のつながりがなく、四郎は3親等... 続きをみる
銭湯2
椅子は不公平にも男性の浴室にしかなく、女性は床に正座する。蛇口が並んでいる流し場は、大浴槽の反対側の壁のみで、大浴槽の前に座って、浴槽からおけで湯を汲んで体を洗っている人が多い。東京に転居してから一度銭湯に行ったことがあり、カランがずらりと何列にも並んでいてびっくりした。浴槽におけを入れたり、浴... 続きをみる
銭湯
京都の町家には風呂場がないから皆、タオルと石鹸と金だらいを風呂敷に包んで銭湯へ行く。昭和になって建てた一郎伯父の豪邸には立派な浴室があるが。女性の洗髪は別料金が必要。一日置きに銭湯に通って、4日ごとに洗髪するのが普通だったようだ。脱衣場の番台に男性が座っていても女性達は平気で裸になる。脱いだ衣服... 続きをみる
廣辭林
6年のときに修平の本棚から夏目漱石の『我輩は猫である』を見つけて、よく理解できないまま読み通した。漢字に全部振り仮名が振ってあるし、旧仮名遣いも読めるが、言葉や言い回しが難解で、何が面白いのかさっぱり分からなかった。 5年になったとき、父が三省堂の『廣辭林』と冨山房の『詳解漢和大辞典』を買って... 続きをみる