私は団塊の世代

団塊の世代の私が生きてきた時代を振り返ってみようと思います。私の記憶の間違いをご指摘くださるとうれしいです。

うそ

 父の帰宅が遅かったり、出張で不在だったりの日の母は、昼間から羽を伸ばしてくつろいだ気分でいるのが、幼児の私にも感じ取れた。夕食も手抜きして、私とマイコの好む物だけ作る。「御飯が腐ってしもたさかい、晩御飯はなしにしよ」と母が言ったことがある。《えー、おなか空いてるのに。》 でも腐っているなら食べられない。諦めきれない私は、「腐った御飯、見せて」と母に要求して、おひつの中をのぞかせてもらった。御飯が腐るとどのように変化するのか分からない私は、腐っているか否か判別がつかなかったが、母の言葉を疑うことを知らず、「ほんまや、腐ってるわ。」 マイコも私に倣っておひつの中をのぞき、「ほんまや、腐ってるわ」と私をまねる。「ほな、もう寝よし」と、夕食抜きで布団に入れられてしまった。普段は寝付きのよい私だが、空腹のせいか、父の帰宅まで布団の中で目を覚ましていたら、隣室で母が父に、「遅なったから、寝る前に食べさせるのはようない思て、御飯が腐ったことにしてん」と言っている。父の笑い声も聞こえた。《お母ちゃんにだまされた!》 このショックは大きく、その後も長く尾を引いた。私達によかれと思ってついたうそだと理解できても、一番信頼している母に欺かれた心の傷は深かった。
 息男も、小学3年生のときにサンタクロースが実在しないことを私が話すと、驚くと同時に私に裏切られたという顔をした。それまでサンタクロースが贈り物を持ってきてくれると言い続けてきた私の言葉をひたすら信じ、「サンタクロースなんかいないよ」と言う友達が年々増えてきても、私の話の方が正しいと思い込んで、ずっと疑わなかったらしい。こんな非科学的な話をいつまでも真実と思わせておくのはまずいと考え、3年生のクリスマス前に話したのだが、以来彼男の私への厚い信頼ははかなく消滅したようだった。

サンタクロース:イラストacより

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