チャルメラ
話を戻すと、父が不在の夜、母は羽を伸ばしながらも、父に頼れない不安な気持ちも見せていた。私にも伝染してうら寂しい気分になり、カエルの鳴き声がいつもより大きく聞こえたりした。夜鳴きそばのチャルメラも、父がいるときは耳に入らないのに、やたらとわびしい音色を奏でる。チャルメラの正体がラーメンの屋台であることを知ったのは大学で寮生活を送ってからである。物悲しいチャルメラの調べが寮の窓から流れてきたとき、感傷に浸り始めた私の横で同室の友人が、「チャルメラだわ。チャルメラの音を聞くと、いつもおなかが空いてくる」と頓狂な声を上げたので驚いた。