『お醤油屋さん』のほかにも食料品店が近所にあったのか記憶にない。大丸とそごうのデパートまで歩いて５分なので、食料品をデパートで買っていたから。そごうは大丸の向こう隣で、母は私とマイコを連れて毎日近い方の大丸に通った。家庭に冷蔵庫が普及していない時代は、生鮮食品を毎日買いに行かなければならない。
　いつもピストン往復だが、たまにおもちゃ売り場に寄ってくれる。「買うてて一回も言わへんかったな。ガラスケースに顔を引っ付けて見てて、かわいそやった。」　私は買えると知らなかったのだ。ただ陳列してあるだけだと思っていた。色々なおもちゃが並べてあって、見ているだけで楽しかった。デパートの食堂で食べさせてもらったこともない。父から毎月必要経費の金しか渡されていない母は、私達に何かを買ってくれる余裕はなかったのだろう。私達に買ったことがけちの父にばれたら怒られるからもあるかもしれない。祖母が母に、「修平を百貨店に連れていくと、いっつも『おばあちゃん、何か食べよ』と言われるけど、キリちゃんと一緒のときはなんにも欲しがらへんからええわ」と話しているのを、私が小学生のときに横で聞いたことがある。それに、私は混んだ所にいると気分が悪くなるたちなので、デパートの中を歩き回るのは好きではなかった。酸素不足になるのだろうか？　母があちこち見て回るときは、途中で踊り場の長椅子に腰掛けて待つことが多かった。
　祖母や伯叔母達はデパートの屋上の遊園地で遊ばせてくれる。私は十円硬貨を入れると何分間か運転できる自動車に乗るのが好きだった。（運動神経ゼロの私は、本物の自動車の運転は敬遠して免許を取っていないので、いつも身分証明に苦労している。）　コーヒーカップのような遊具は、酔うので駄目。屋上遊園地は70年代頃から激減し、私の子供達は屋上遊園地を知らない。

大丸心斎橋店の現在の地図
大丸のウェブサイトより