私は団塊の世代

団塊の世代の私が生きてきた時代を振り返ってみようと思います。私の記憶の間違いをご指摘くださるとうれしいです。

子取り

 誘拐事件も昔は現在より多かったのだろうか? 当時は戦争で家族を失い、『浮浪児』(ストリートチルドレン)となった子供もいて、身代金目的以外の誘拐をメディアは深刻視していなかっただろう。私達は周りの大人から子取りの話をよく聞かされた。「子取りにさらわれたら、酢をぎょうさん飲まされて体を軟らこうして、サーカスに売られるのえ」と脅かされた。運動音痴でサーカスの曲芸なんかできるはずもない私は、さらわれたらたいへんと震え上がった。
 それほど誘拐を恐れていながら、下校時知らないおじさんにトラックに乗せてもらったことがある。独りで歩いている私の横に小型のトラックが止まり、「辻さんとこのお嬢ちゃんやね」と運転手が声をかけた。私は首を振って違うと答えたつもりだったが、「おうちまで送ったげるさかい乗りよし」と言われ、助手席に乗せてもらうことになった。トラックに乗るのは初めてで好奇心が湧き、しかも家までの数百mを歩かずにすむ。家の前に来たとき、私は「ここ」と言って降りた。彼男の店の得意先の辻さんの家ではないので、彼男はあっけにとられていた。彼男に下心があったら私はどうなっていたか。私は慎重な子供の部類に属したはずなのに、それでもこうなのだから、子供を誘拐するのはいとも簡単だ。
 日本は治安のよい国だと世界から一目置かれているが、もっと安全な住み心地のよい国になってほしいと願う。現実は逆に、格差が広がって治安が悪化しつつある。格差社会は、自分がいつ貧困層に落ちるか分からないという不安だけでなく、貧者が犯す犯罪の犠牲になる危険も増大する。『一億総中流』の時代に戻ってほしい。国民の間に階級がなく皆対等で、お互いの人格を尊重し合い、お互いを信じ合える社会になれば、犯罪は激減するだろう。秩序の遵守に因って誰もが恩恵を被り、各自の真摯な意見が自由に発表できる社会では、あえて秩序を乱そうとする者はいなくなると思うのだが。

浮浪児:デイリー新潮より

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