私は団塊の世代

団塊の世代の私が生きてきた時代を振り返ってみようと思います。私の記憶の間違いをご指摘くださるとうれしいです。

ジキルとハイド

 肉屋のおばさんは上得意の母にいつもおべんちゃらを言う。例えば代金の計算時に、「いやあ、お母ちゃんの方がおばちゃんより計算速いわ。あんたのお母ちゃん、すごいなあ」と私に向かって言う。母は小学校低学年の私よりも計算が遅いのによくそんな見え透いたお世辞をとあきれた。そのおばさんが、私が独りで使いに行ったある日豹変した。複数の客の中で順番を待っていて、ようやく私の番だと思ったとき、彼女は後から来た人に声をかけ、私を無視した。人見知りで引っ込み思案の私は抗議などできない。客が皆いなくなり、私1人になると、「何?」とぶっきら棒な言葉を投げ付けた。私が小さな声でぼそぼそと注文してからもずっと最後まで彼女は不機嫌な顔で応対した。大人と子供に対する態度がジキルとハイドのように違う彼女への憎悪で、帰りの道中頭がいっぱいだった。にもかかわらず、彼女の非礼な態度についてなぜか母に報告できなかった。母はその後も歯の浮くおべっかを並べ立てる彼女に好感を抱き続けたにちがいない。
 金輪際彼女の顔を見たくない私は、以後肉屋の前を通らないことにした。母と一緒に市場に行っても肉屋に寄る母から離れて別の店で母を待つ。愚鈍な子供に見えてもなめてはいけない。自尊心も持っているし、ひそかに大人の行動を批判している。でも私のような子は誰にも告げ口しないから、大人は痛くもかゆくもないか。今も思い出すと腹が立つが、彼女の心情を理解できる気もする。家族のために多く稼ごうと彼女なりに懸命に努力していたのだと思う。

ジキルとハイド:PIXTAより

×

非ログインユーザーとして返信する