私は団塊の世代

団塊の世代の私が生きてきた時代を振り返ってみようと思います。私の記憶の間違いをご指摘くださるとうれしいです。

家庭教師

 小学校に入学した直後に1年下の向学心旺盛な女児と知り合った。私に字を教えてほしいと我が家に通うようになり、私は大喜びで家庭教師を引き受けた。彼女の家がどこなのか正確に知らないが、我が家から1km以上離れているらしいにもかかわらず、週に何日も通ってくる。私の教科書を見て目を輝かせ、「学校に行ったらこんな本を使うの?」とか、「学校ではこんなことを習うの?」とか興味津々で、私も教えがいがあって楽しい。
 ある日家庭教師の最中に、マイコが近所の幼女達を家に連れてきて、彼女と鉢合わせしてしまった。近所の子供達は面識のない彼女になぜか敵対心を抱き、皆で彼女を悪者呼ばわりした挙げ句に、彼女に暴力を振るい始めた。彼女の方が年上なのでマイコ達の誰も彼女を負かすことができず、「キリコちゃん、やっつけてんか」と私に加勢を求めた。かくして私と彼女が一騎打ちする羽目になった。私はマイコとも取っ組み合いのけんかなどしたことがないのに、なぜこのような展開になったのか理解できぬまま、彼女と格闘を始めた。必死で抵抗する彼女にひっかかれて私がひるむと、周りで見ていた子供達が一斉に彼女に飛びかかり、ついに彼女を泣かせてしまった。泣きながら帰ろうとする彼女に、子供達は玄関でなおも罵声を浴びせ続けた。私は最後まであっけにとられたままだった。私を慕ってくれる大事な教え子を子供達の暴力から救い、子供達の方を戒めるべき立場なのに、私も一緒になって彼女をいじめてしまったと、正気を取り戻した後で後悔しまくったが、手遅れである。
 母がいれば絶対にこんなことは起きなかったのだが、あいにく出かけて留守だった。その後彼女が私の家に来ることは二度となく、外で彼女を見かけることもなかった。今では彼女の名前も思い出せないが、私の家より貧しそうで、親しい友達もいなそうな雰囲気の彼女だったから、いつまでも教えてあげたかったのに、家庭教師はわずか2、3カ月でピリオドを打った。
 敵意むき出しの幼女達は、自分達の『先生』を横取りされたように感じたのだろうか? そこまで私を慕っているようには思えなかったけど。彼女から貧困家庭の気配を嗅ぎ取って、排斥すべきと直感したのだろうか? 「あの子と遊んではいけません」と、下層の子供との交際を禁じる親もいるので。1970年代の『一億総中流』時代より前の53年(昭和28年)の頃は、日本全体が豊かでない中、格差も大きかった。『一億総中流』の到来を私は大歓迎したが、21世紀になって再び貧富の差が広がってきているのは由々しい。

イラストacより

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