神童
我が家から数百メートルのところに住む親戚のミネは、来訪のたびに、私の新しい絵を見るや、「キリコちゃんの絵はピカソや」と叫ぶ。『ピカソ』とは訳の分からない絵という意味である。私は静物を忠実に写生しているつもりなのに。彼女は父の姉の息女なので私の従姉になるが、父と同年で、2人は小学校の同期生である。父を『さぶちゃん』と呼ぶ。「さぶちゃんは、学校で神童と言われてたんえ」と彼女が話すのを何回か聞いた。私が二十歳近くになってから彼女が言ったときは、父が、「二十歳過ぎればただの人や」と応じた。自嘲のように私には聞こえて、切ない気持ちになったことを思い出す。