つづり方兄妹
『綴方教室』と『つづり方兄妹』も、学級文庫にある。どちらも貧しい家庭に育った子供の作文集である。『綴方教室』は私の母と同い年の豊田正子がつづった。時代も生活も私と異なり、内容がよく理解できなかった。『ねずみいらず』という言葉が度々出てきて、なんだろうと思ったことしか覚えていない。《食べ物を入れておく戸棚らしい。『猫要らず』という殺鼠剤は聞いたことがあるけど、ネズミが要らないなんて名前はおかしい。》 『要らない』じゃなくて『入らない』だと、読後しばらくたって理解した。彼女も『路傍の石』の吾一と同様、担任に裏切られた。『綴方教室』がベストセラーになって得た収入を担任が独り占めして、正子に渡さなかったのだ。『路傍の石』はフィクションだが、『綴方教室』の不義は実話である。
『つづり方兄妹』はきょうだい3人の作文集だ。3人の下にも何人かきょうだいがいる。中学生の長男はしっかり者で妹弟思い。2番目の長女は私と同い年。貧乏で口唇口蓋裂の治療を受けられず、言葉を明瞭に話せない。いじめられっ子。3番目の二男が小学3年生で病死したのを知ったときはかわいそうで、彼男を助けなかった周りの大人達に憤慨した。長男は弟が誤診で死んだと怒りの作文を書いている。私が6年生のときに映画も作られ、学校から映画館へ見に行った。二男が新しい運動靴を買ってもらって大喜びし、トイレは汚いので靴を汚したくないと、脱いだ靴を抱いてはだしでトイレに入る。映画はそのシーンを、ひょうきんな子供のように描いて観客の笑いを誘おうとするが、私はそれに納得できなかった。彼男の作文を読めば真剣に選択した行動だと分かるのに。

日本の古書より