氷屋
まだ自動車の少ない時代なので、私のような鈍い子でも交通事故を気にせずに乗れた。前から歩いてくる中年女性をよけ損なって股間に前輪を突っ込み、怒り出した彼女を尻目に必死で逃げたことがある。マイコを後ろの荷台に乗せて近所を走り回るのは楽しい。マイコは後ろ向きに乗り、後方の見張り役を引き受けて、「オートバイが来たよ」と私に知らせてくれる。私も後ろ向きに乗ったことがあるが、荷台を手でつかむしか持つ所がないので怖い。正面の景色は遠ざかっているはずなのに、近づいてくる感じがする。圧縮効果による錯覚だ。
自転車に乗れるようになってから、氷屋で氷を調達するのが私の役目になった。冷蔵庫代わりのジャー(大きな魔法瓶)に入れる氷を、週に2、3回買いに行く。解ける氷の量が、徒歩の母より少なくてすむ。1貫目(3.75kg)の氷を半分に切って、500目(匁)にしてもらう。ノコギリのようなギザギザの歯でゴシゴシと切り、下から1/4くらいまで切れたら、ノコギリで氷をポンとたたいて残りを割る。真っすぐに割れて、きれいな直方体になるのが不思議。最後まで切ると、既に切った上の方がくっついてしまうのだ。
当時の道路はアスファルトで舗装されていないから、小石がごろごろあり、くぎなども落ちていて、自転車がしょっちゅうパンクした。自転車屋に行くと10円で修理してくれる。タイヤを一部外して、そこから中のチューブを少しずつ引っ張り出しては水を張ったバケツに漬け、空気の泡の有無でチューブの穴を見つける。穴が見つかったらゴム片を貼って終わり。タイヤも破損したことが1度あり、そのときはタイヤごと交換して100円だった。東京に転居後はパンクしたことがない。