音楽1
S小学校は各教室にオルガンがある。級友達が休み時間に『猫踏んじゃった』を弾くので、私もすぐに弾けるようになった。鍵盤楽器に触れるのは、兵庫県で友達の家に泊まりに行って以来でうれしい。S小学校では4年から縦笛を習う。笛が指導要領に初めて載るのは1958年(昭和33年)の改定版だから、全国の小学校で笛の授業が始まったのは私の小学校卒業の年かららしい。『笛』が『リコーダー』という名称に変わったのは89年制定の学習指導要領からである。当時S小学校でも『笛』と呼んでいた。
早速学校指定の笛を買って、級友に追い着くために毎日猛練習した。2学期最初の課題曲は、モーツァルト作曲の「アイネクライネナハトムジーク」第2楽章ロマンス。指で穴をきちんとふさげるようになるまでがたいへんなのに、こんなに難しい曲を演奏せねばならない。下校後毎日家でピーピー吹き続けた。父がうるさがるので父の帰宅後は吹けない。1週間くらいでどうにかまともな音が出るようになり、まもなくロマンスも吹けるようになって、周りを見回すと、私より下手な子もいることに気付いた。それまで必死だったのが、人心地付けた。
笛で正しい音程を知ることができ、以後音痴が少しましになったと思う。それまで我が家の楽器はハーモニカのみで、母だけが簡単な曲を吹けた。私はドレミファソラシドと順に吹くことしかできない。笛と違って、ハーモニカは吸って出す音もあるのが少し気持ち悪い。笛のほかに木琴も買ってもらい、楽譜を見て知らない歌も歌えるようになった。最初の分数の意味も、♯と♭を組み合わせればドの高さを変えられることも知った。ヘ音記号も読めるようになった。音名も理解した。1オクターブ上がると周波数が2倍になるとか、音楽が算数的であることに気付いて、俄然楽しくなった。作詞作曲も試みた。私の処女作は『サイクリング』。小坂一也の『青春サイクリング』がはやっていたので、私もまねしてみた。『青春サイクリング』と違ってメロディーも歌詞もすこぶる単調な駄作だが、自転車に乗りながら歌ってうれしがっていた。
リコーダー:パブリックドメインQより