名簿
2学期が始まった教室内は、絵以外にも習字や作文などが壁いっぱいに展示してある。その中に岩井友明君の署名を見つけて、岩倉具視にそっくりの名前だと思った。大川寿太郎君は小村寿太郎と同じ名前だ。
私がローマ字で書いた日記は展示されていない。4年で習ったブロック体を卒業すべく、筆記体の練習を兼ねて、4本の罫線入りのローマ字用ノートに書いた。吉村先生は筆記体を褒めてくれた。ローマ字を読むのは時間がかかってたいへんだったろう。読み終わらなくて教室に展示できなかったのかも。でも独身の吉村先生は全ての時間を担任の仕事に費やしているようで、私の日記も楽しんで読んでくれたみたいだ。ちなみに日記は返却してもらっていない。卒業までの1年半に書いた作文も絵も、作品は全く戻ってこない。
S小学校の名簿は、あいうえお順ではなく、生年月日順なのに驚いた。以後子供達のも含めていろいろな学校の名簿を見てきたが、生年月日順はS小学校だけである。男子先、女子後の女男別である点は当時の多くの名簿と同じ。
S小学校には校歌があるのにびっくり。兵庫県のK小学校にはなかった。全校児童が『君が代』を歌えるのにも驚いた。国旗掲揚のときにレコードの伴奏に合わせて斉唱する。古語の難しい歌詞を覚えているのに感心した。大相撲千秋楽でも観客が起立して『君が代』を斉唱するが、私はいつもいい加減にしか聞かず、歌詞を覚えようと思ったことはなかった。K小学校では国旗が上がるのを眺めながらレコードを静かに聴いているだけ。<きれいな曲やなあ>と私はいつも心地よい気分に浸った。子供達の下手な歌が入ると幻滅だ。でも、<わたしも覚えなくては>と頑張ってすぐに斉唱に加われるようになった。歌詞の内容に納得できなくなってからは、起立するだけで歌わない方針を貫いている。
国旗掲揚:イラストACより