私は団塊の世代

団塊の世代の私が生きてきた時代を振り返ってみようと思います。私の記憶の間違いをご指摘くださるとうれしいです。

汚れなき悪戯

 4年生の夏休みも家族で琵琶湖の一郎伯父の別荘に泊まりに行った。ある日映画のロケが浜辺であり、興味津々の私は熱心に見た。中村錦之助(萬屋錦之介)と東千代之介が主役の『曾我兄弟・富士の夜襲』という映画で、鎌倉時代に起きた仇討ちの話である。『世界名作全集』の『曽我兄弟物語』を読んだばかりだったから、よけいに興味をそそられた。主役の2人は現れず、曽我兄弟の少男時代を務める子供達が演技する。頼朝の命で由比ヶ浜で打ち首になりかけるシーンだ。子供達は片岡千恵蔵の長男と長女。長男は5年生で、私より1年上。大学の先輩が中学校の同級生だったと言っていた。長女は1年生の植木千恵さん。私はそのときはまだ彼女を知らなかったが、以後少女雑誌に彼女の写真をたくさん見つけた。2人の弟の植木義晴さんは現在日本航空の会長だ。炎天下の浜辺に一日座らされている2人に同情した。太陽がぎらぎらと輝いていてとても明るいのに、更に明るくすべく、アルミはくの大きなレフ板を何枚も使って太陽光を反射させる。処刑の中止を伝えるために馬で走ってくる畠山重忠役の大友柳太朗は、代役に乗馬を任せて、本人は日陰に入ったまま団扇であおぎながら、「待てえ!」と何度も叫んでいる。「あの役は楽でええな」と母が私にささやいた。
 2カ月後くらいに映画が封切られた。駅前に映画館ができて間もない頃で、私は独りで見に行った。家族は皆興味がないと言う。当時の映画館はメインの映画の前にニュース映画を上映する。テレビが普及していない時代は、ラジオと新聞の報道でしかニュースを知ることができなかったので、映画館で動画を見られて皆喜んだろう。映画はカラーが多いのにニュースは常にモノクロ。
 1日がかりだったロケーションの場面がどのように映るのか見たくて映画館に行ったのだが、なんと1、2分で終わった。しかもモノクロ。カラー映画であるにもかかわらず、主人公の追懐の中だけにしか使われないからモノクロなのだ。あれだけの人と物と時間を費やしてたった1、2分とは! 映画全体を完成させるにはどれだけ手間暇をかけているのだろうと思うと気が遠くなる。
 邦画館の隣に洋画館もあり、洋画館にも1度入ったことがある。母とマイコと3人で『汚れなき悪戯』を見た。名画だと思った。最後のシーンが4年生の私には理解できず、母に「どないなったん?」と尋ねたら、主人公のマルセリーノが神に召されて死んだと教えてくれた。ハッピーエンドの話じゃないのがやるせない。《元気そうやったのに何で突然死んだんやろ?》と納得がいかなかった。主題歌の『マルセリーノの歌』も名曲だ。

汚れなき悪戯:AmazonのHPより

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