高架橋と踏み切り
翌日からタオちゃんと一緒に登校した。S小学校は、上履きを入れる草履袋も給食袋も要らず、母が作った布製の手提げかばんだけ持っていけばよい。上履きは下駄箱に入れて持ち帰らないし、給食の食器は学校に備わっている。アルマイト製の食器で、K小学校で使っていた持参のプラスチック容器と感触が違い、元々給食嫌いの私はアルマイトに慣れるまで更に食欲が減退した。私のランドセルは3年生のときに壊れ、以来手提げかばんで通学している。同級生も皆手提げかばんだ。ランドセルは幼稚でかっこ悪いからか、それとも私と同じようにランドセルが壊れて使えなくなったからか? 今は大人でも、手提げより両手が空くリュックの方が人気だが。タオちゃんはヘップサンダルを履いて登校することもある。K小学校では考えられない。
山手線の高架橋をくぐって登校する。新宿区立S小学校は山手線の内側にあり、タオちゃんと私の家は外側にある。K小学校の通学路もレールを挟んでいたが、阪急線は踏み切りで、こちらは高架橋だ。高架橋を同級生は皆『ガードレール』と言う。電車の通過を待たずにすむのはいいけど、電車が上を走るとゴーッと大きな音がして少し怖い。
S小学校まで500m。K小学校は1kmだった。近くてうれしい。もっと短距離にしようと、タオちゃんの家に着くまでの200mの真っすぐな道を細長い長方形とみなし、その対角線上を歩くことにした。まだ車の少ない時代なので、道路の真ん中を歩いても支障はない。道路でバドミントンもできる。中学校の数学で、『三角形の2辺の長さの和は、他の1辺の長さより大きい』と習ったとき、小学生時代に毎日長方形の2辺の和より対角線の方が短いことを実感していた私は、この定理がすぐに頭に入った。
高架橋:photoACより