くも膜下出血
真理子も翔子も短命だった。
翔子は26歳で亡くなった。歯科医の夫を助けるために歯科衛生士の資格を取り、一女をもうけて幸せいっぱいのときに。年末で夫の実家に帰省していた。突然頭痛に襲われ、意識不明になった。死因は脳内出血。翔子の葬式に駆けつけると、母親の洋子叔母は、「翔子ちゃん、ママと代わって! ママと代わって!」と遺体にすがりついて泣き叫んでいた。私は今でもその光景を思い出すと涙ぐんでしまう。翔子の妹の聖子から後に聞いた話によると、くも膜下出血だったそう。解剖を断ったから正確には分からないが、聖子の息男に脳動脈瘤が見つかって開頭手術を受けたので、翔子にも脳動脈瘤があったはずだと聖子は言う。私が洋子に、「生まれたとき首に腫れ物があったけど、それが原因ではないの?」と尋ねると、「さあ、どうか分からへん。血圧が高いて言うてたけど。」
翔子は小学4年生のときに私の前で、「将来の計画を立てなきゃ」と言って紙に書き始めた。「近所の好きなお兄ちゃんと結婚して」と、もう結婚相手を決めていたので私は驚いた。そして実現させた。息女ができると、『私の大切なお姫様』と書いた手紙をくれた。字も文も苦手な彼女からもらった数少ない手紙のひとつである。その7年前の私の息男の誕生時に、祖母が編んでくれた帽子とカーディガンを、早速彼女に送った。青色だから男児用だが、もう祖母は翔子の赤ちゃんに編んであげられないだろうと思って送った。翔子は活用してくれただろうか? 私は息女に着せなかったから、翔子も着せなかったかもしれない。妹の聖子には息男が2人いるから着てくれていれば、祖母も天国で喜んでいるだろう。翔子の大切なお姫様は母親の愛情を知らずに育って、現在40代である。代わりに洋子妻夫と聖子が愛情を注いだ。彼女は洋子には及ばないが、かなりの美人だ。
祖母からの贈り物を着た長男